日本の建設業界は今、深刻な人材不足に直面しています。
国土交通省のデータによると、建設業従事者の平均年齢は約47歳。
55歳以上が全体の約35%を占める一方で、29歳以下はわずか約12%にとどまっています。
つまり、業界全体が高齢化しており、若手の入職者が圧倒的に少ない状態です。
この人材構造は、施工管理職にも直結します。
現場の要である施工管理技士が不足しているため、企業は経験者を奪い合うように採用を進めており、転職市場では“売り手市場”の状況が続いています。
特に「1級施工管理技士」「2級施工管理技士」を持つ人材は引く手あまたで、年齢を問わず求人が途絶えることはほとんどありません。
人手不足の背景には、建設需要の高さもあります。
再開発・老朽化対策・インフラ更新など、社会的に必要とされる工事が今後20年以上続くと予測されており、施工管理職の需要が急に減ることはまず考えられません。
今後10年の建設需要予測:縮小ではなく「再編」へ
一見すると、人口減少が進む日本では建設需要も縮小すると思われがちです。
しかし実際には、「新築」から「維持管理・再生」へと需要の方向が変化しているだけで、仕事そのものは依然として多く存在します。
国交省の「建設投資見通し(2024年版)」によれば、
・公共投資:約27兆円
・民間投資:約42兆円
と、過去5年間で大きな変化はありません。
特に都市インフラの再整備、防災対策、老朽化建物の改修など、「建て直す」需要が増えています。
また、東京・大阪などの都市圏では再開発ラッシュが続いており、リニア中央新幹線、万博関連工事、都市再構築プロジェクトなどが今後数年にわたって施工管理職を必要とします。
地方では、道路・橋梁・上下水道などの維持補修が増加しており、土木系施工管理の需要も安定しています。
つまり、建設業界は“縮む”のではなく、“質が変わる”フェーズに入ったと言えます。
施工管理職の将来性:DXと省人化で進化する現場
施工管理の仕事は、今まさに変革期を迎えています。
これまで「紙」「電話」「現場立ち会い」が中心だった業務が、デジタル技術の導入で効率化・省人化が進んでいます。
代表的な変化として、次のようなDX(デジタルトランスフォーメーション)が挙げられます。
- BIM/CIM(3次元モデル) による設計・施工の一体管理
- クラウド型施工管理ツール(ANDPAD、現場Plus など)の普及
- ドローンや3Dスキャナーを活用した測量・進捗管理
- 遠隔臨場システムによる現場監督の省力化
これらの技術により、「現場に常駐しなくても管理できる」環境が整いつつあります。
その結果、施工管理職は“体力勝負”から“マネジメント職”へと役割が進化しています。
今後は、ITスキルやデータ分析の知識を持つ施工管理者がより高い評価を受けるようになるでしょう。
特に、BIM/CIM対応ができる人材は、ゼネコン・サブコン問わず需要が急増しています。
女性・シニアの活躍も進む建設現場
建設業界=男性社会というイメージは、少しずつ変わりつつあります。
国交省の調査では、建設業における女性比率は10年前の約2%から、現在は約5%に増加。
特に「施工管理補助」や「安全・品質管理」など、体力よりも調整力や管理スキルが求められるポジションで女性が増えています。
また、60歳以上の再雇用も進んでいます。
経験豊富なベテラン施工管理者は、若手育成や品質管理で欠かせない存在です。
健康に配慮した働き方(時短勤務・現場ローテーション)を導入する企業も増えており、シニア層の雇用は今後さらに拡大するでしょう。
こうした多様な人材の参入は、施工管理職の働き方を柔軟にし、より持続可能な業界構造をつくる原動力になっています。
平均年収の推移と今後の展望
施工管理職の平均年収は年々上昇傾向にあります。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、
・2020年:約580万円
・2023年:約630万円
と、3年間で約50万円上昇しています。
特に有資格者(1級施工管理技士)は平均年収700万円前後、経験10年以上の現場所長クラスでは800万〜1000万円に達するケースもあります。
この背景には、人材不足による「奪い合い」と、企業が資格者を確保するための待遇改善があります。
加えて、公共工事の入札条件として「有資格者の配置」が求められるため、企業は資格者を雇うほど受注機会が増えるという構造も影響しています。
つまり、施工管理職は“今後10年で年収が下がりにくい仕事”の一つです。
中小企業でもチャンスが増えている理由
これまでは大手ゼネコン中心に需要が集中していましたが、最近では中小規模の建設会社にも追い風が吹いています。
公共事業の分散化や、地域密着型リフォーム・耐震工事の需要が高まっているためです。
その結果、
- 地方での転職でも高収入が狙える
- 管理職ポジションでの採用が増える
- ワークライフバランスを重視した企業が増加
など、働き方の選択肢が広がっています。
特に、地方の中堅建設会社では「現場を任せられる施工管理者」が最も不足しており、資格と経験があれば即採用されるケースが多く見られます。
これからの施工管理に求められるスキルとは?
将来の建設現場では、単に図面通りに施工を進めるだけでなく、デジタルツールを駆使して全体をマネジメントする力が求められます。
今後のキャリア形成で重要となるスキルは以下の通りです。
- ITリテラシー(BIM/CIM、施工アプリ操作)
- コミュニケーション能力(協力会社・施主との調整)
- 品質・安全意識の高さ
- 若手教育・チームマネジメント力
- コスト意識と予算管理スキル
これらを磨くことで、年齢に関係なく活躍できる施工管理者としての価値が高まります。
まとめ:施工管理職の未来は“安定と進化”の両立へ
データを見ても明らかなように、建設業界は今後も長期的に需要が続く分野です。
特に施工管理職は、DX化や人材不足という背景の中で「価値の高い専門職」として位置づけられています。
- 建設需要は再編期に突入(新築→維持・再生へ)
- 有資格者の価値は上昇し続ける
- DX化に対応できる人材は市場価値がさらに高まる
- 女性・シニアの活躍が進み、多様な働き方が可能になる
つまり、施工管理の未来は“なくなる仕事”ではなく、“進化する仕事”です。
経験を積みながら資格とスキルを磨き、デジタル時代に対応できる管理者を目指せば、今後10年、20年先も安定したキャリアを築くことができるでしょう。
